株式会社カインズ

“社内エンジニア集団による内製化を推進
自律的なスキルアップを促す「DIY HR」で実現する
新サービスのスピーディな実装でDXを加速”

チーフ デジタル オフィサー(CDO) チーフ マーケティング オフィサー(CMO)
池照 直樹氏
デジタル戦略本部 デジタルソリューション統括部 Salesforceソリューション開発部 Webスクラム開発グループ グループマネージャー 崎濱 美希子氏
デジタル戦略本部 デジタルソリューション統括部 Salesforceソリューション開発部 Webスクラム開発グループ 崔 国氏
店舗エンジニアリング本部 店舗生産性改革部 部長 白鳥 好太氏

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ノーコード/ローコード開発ツールとトレーニングサービスの活用で
エンジニアリングの民主化を推進

ホームセンターチェーンを各地に展開するカインズにとって、顧客の利便性や従業員の生産性向上に寄与するサービスをいかに短期で開発し、スピーディにリリースしていくかが重要なテーマとなっていました。その実現に向け、同社が採用したのが社内のエンジニア集団によるシステム内製化でした。

システム開発の内製化に舵を切りスピード感あるデジタル戦略を展開

全国28都道府県下に227店舗(2021年12月現在)のホームセンターチェーンを展開するカインズ。日常生活に寄り添うライフスタイルの提案と、住空間のトータルコーディネートを意識した商品づくり、店舗づくりに努め、日用品・キッチンから、インテリア・リフォーム、ペット、アウトドア、建築・農業資材、DIYまで、人々のくらしを彩る幅広い商品を、圧倒的な品揃えで顧客に提供している。

「とくに近年では、テクノロジーの急速な進化を背景として、お客様のニーズも劇的に変化しています。カインズでは、そうした環境変化を次なる成長ステージへの大きなチャンスと捉え、新たな店舗環境や新サービスの創造を目指したDX(デジタルトランスフォーメーション)を、今まさに推進しているところです」とカインズの池照直樹氏は語る。

日本型ホームセンター業態を確立した会社設立時を第一の創業、2007年にSPA(小売製造業)化を宣言した第二の創業に対し、同社ではデジタル戦略をビジネスの重要な柱の1つとして明確に打ち出し、各種施策の展開を開始する現在を「第三の創業期」と位置付けている。そうしたデジタル戦略を社内において牽引する組織として、カインズが2019年に立ち上げたのがデジタル戦略本部である。

当時、カインズは大きな経営課題を感じていたという。ホームセンター業界自体の成長が10年以上横這い状態にあり、カインズの成長もいずれ止まってしまう時が来るのではないかという危機感があった。そのような状況を見据え、改革を断行するのなら利益の出ている今しかないと考えた同社は、2019年度から始まる中期経営計画の中にデジタル戦略を明確に謳い、その推進を担う組織としてデジタル戦略本部を立ち上げたわけだ。

同本部の主要テーマは、既存のリアル店舗における顧客体験をもデジタル技術を駆使して進化させ、デジタルとリアルをシームレスにつないだ新たな購買体験を提供すること。そこでは、デジタルによる顧客提供価値の向上、および店舗業務の効率化に寄与するデジタルソリューションの企画・開発が鍵となる。これに対し、同社では、システムの内製化へと舵を切り、そこで必要となるエンジニアの採用も積極的に進めていくことを決断した。

チーフ デジタル オフィサー(CDO)
チーフ マーケティング オフィサー(CMO)
池照 直樹氏

2016年から顧問としてカインズのデジタル戦略推進に参画。2019年7月にはデジタル戦略本部本部長に就任し、同社のDX推進を牽引しています。

トレーニング受講後直ちに開発に着手し速やかにリリース

これまで同社では、システムインフラやプラットフォームの構築はもちろん、現場従業員向け、あるいは顧客向けのアプリケーション開発などを含め、基本的にはすべてグループ会社を含む外部のSIパートナーに委託してきた。「しかし、そうしたやり方では、比較的小規模なアプリケーション開発では、現場から開発に至る距離が相応に長くなり、スピード感が失われ、コミュニケーションコストもかさんでいました」と池照氏は内製化の必然性について語る。

昨今では、インフラがクラウド化され、大掛かりな構築作業が不要となっている。加えて、システム基盤についてのノウハウがなくても、アプリケーション開発を実現でき、リリースできる環境が整っている状況である。したがって、カインズが内製化に踏み出すにあたってのハードルが大きく下がっているものといえる。

「とくに高度なプログラミングのスキルが必要なく、アプリケーション開発が行えるノーコード/ローコード開発ツールの存在は、内製化実現に向けての大きな武器になると考えていました」と池照氏は説明する。そこで、カインズでは、以前からCRM基盤として採用していたSalesforceをノーコード/ローコード開発環境として活用することにした。

デジタル戦略本部立ち上げ当初は、ごく少人数のエンジニアでの船出だったが、そうした体制の下でも同社では、果敢に内製化の取り組みをスタートさせている。たとえば、顧客と店舗をつなぐシステムを主に担当するWebスクラム開発グループでは、最初のプロジェクトとして「CAINZ PickUp」というサービスの開発に着手。顧客がネット上で商品の注文を行い、店舗で受け取れるというサービスで、せっかく来店した顧客が目的の商品を在庫切れなどにより購入できないといったことを防止するためのものだ。

その開発に当たったのが、店舗で資材課の販売担当を経て、同グループに異動してきたばかりの崔国氏だ。同氏は、プログラミングの経験はあったものの、Salesforceを触ったことがなかったという。そうした折に、上司からの勧めで、崔氏はSalesforceの有償トレーニングを5日間受講することにした。「講習では、Salesforceがそもそもどういうものかということの解説に始まり、内部的な仕組みやAPIを介した外部との連携などを懇切丁寧に教えてもらいました。さらに私が着手していたCAINZ PickUpの開発において直面している問題についても、講師の方に指導を仰ぐことができました」と崔氏は振り返る。受講後、崔氏は短期間でCAINZ PickUpのパイロット版を作り上げ、1カ月以内にサービスのリリースにこぎつけている。

なお、こうしたように、従業員に対して積極的に外部研修の受講などの機会を提供していることもカインズの大きな特徴だ。「当社では、『DIY HR』というコンセプトを掲げています。教育プログラムに限らず、キャリアパスなどについても、会社としてさまざまなメニューは用意していますが、参加するのも、キャリアを考えるのもすべてメンバー自身、すなわちDIY(Do It Yourself)。あくまでも、メンバーが自発的に参加していくというカルチャーの醸成や体制づくりを目指しています」と池照氏は紹介する。(※カインズでは従業員のことをメンバーと呼ぶ。)

一方、カインズでは内製化の取り組みに着手するかたわら、エンジニアの人員増強に向けた採用活動も積極的に行っている。現在、Webスクラム開発グループでマネージャーを務める崎濱美希子氏も、デジタル戦略本部立ち上げ後にキャリア採用でカインズに入社したエンジニアの一人だ。転職前はWebのサーバーサイドの開発を行っていたというが、Salesforceの経験はなかった。「すでに面接時から、Salesforceでの開発に従事することを告げられており、採用決定後、入社までの時間を使ってTrailheadを使って自習を進めました。また入社後早々には、Salesforceの有償トレーニングを受講。Trailheadでの自習で登場してきた、当初は耳慣れなかった専門用語の理解も進み、難しいと思われた内容も体系的に整理することができました」と崎濱氏は語る。

人員の増強により、内製開発も加速。たとえば、顧客がDIY、工作の作業場として利用できる、店舗内のカインズ工房と呼ばれるスペースの利用や、そこで行われるDIY講座などの予約を受け付けて管理するサービスである「CAINZ Reserve」、リフォームの受付対応をサポートする「CAINZ Reform」、あるいはネットで注文を受けた商品をEC用の倉庫からではなく顧客の最寄りの店舗から出荷する「店舗出荷」のサービスなど、各種のアプリケーション開発が順次進められ、いずれも短期でのリリースが実現された。

こうした短期開発により、従来のような万全を期して長大な期間をかけて開発を行い、リリースするというやり方に代え、まずは利用に供し得るものをスピーディに実装して即座にリリースし、実際の運用の中で、都度発生する課題やニーズに応じた改善を重ねてサービスをブラッシュアップしていくという、アジャイルなアプローチが可能になっている。「こうしたスピード開発に貢献しているのが、Salesforce活用によるエンジニアリングの民主化であり、現場に近い社内の人員が開発を手掛けていることだといえます」と池照氏は強調する。

デジタル戦略本部
デジタルソリューション統括部
Salesforceソリューション開発部
Webスクラム開発グループ
グループマネージャー
崎濱 美希子氏

2019年12月にキャリア採用により入社。現在、デジタルソリューション統括部に属するWebスクラム開発でグループのマネージャーを務めるかたわら、サービス開発業務にも従事しています。

デジタル戦略本部
デジタルソリューション統括部
Salesforceソリューション開発部
Webスクラム開発グループ
崔 国氏

エンジニアとして入社し、当初配属は店舗で資材課の販売担当。そのあと本部のイノベーション室に異動し、Web開発を経験したのち、デジタル戦略本部のソリューション開発部(当時)に異動し、サービス開発に携わっています。

成功例の認知拡大に伴ってビジネス現場の意識も変革

今後も、カインズでは、現在すでに在籍エンジニアが150名を数える開発部隊のさらなる陣容拡充を図りながら、エンジニアと店舗などビジネスの現場との間の密接な連携のうえに、顧客の利便性をさらに高め、従業員の生産性向上に寄与する新たなサービスの構築、既存サービスの改善に取り組んでいくことになる。

もっとも、陣容を拡充するといっても、現在わが国は深刻なエンジニア不足に直面しており、人財の調達も容易ではない。そこで、同社ではインド南部チェンナイにオフショア開発拠点「カインズ・オフショア・ディベロップメントセンター」を設置。2021年10月に稼働をスタートさせている。この取り組みは、インド最大手のITサービス会社であるタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)との協業によるもので、新たな開発拠点はTCSの施設内に置かれている。

池照氏は「我々としては、せっかく設置したオフショア拠点を、いわゆる丸投げの開発委託先として活用してはならないと考えています。あくまでも、この拠点はカインズのデジタルチームの拡張部分であり、同一のチームであるという感覚で臨んでいます」と強調。「拠点との協働においては、日本側のエンジニアが英語でのコミュニケーションによって、自らの意図を明確に伝えられるようになっていくことも必須だと考えています」と続ける。

デジタル戦略本部のエンジニアが有償トレーニングを受講することにより、
短期間でさまざまなアプリ開発に成功している

Salesforce活用による内製化が成果をあげているという事実についての認知が店舗などビジネスの現場に広がる中で、現場側でのサービス構築に向けた意識も変化してきているという。カインズの白鳥好太氏は、「システムの開発や改修を外部ベンダーに委ねていた従来の環境では、委託にかかわるコストの問題などもあり、現場側では、サービスについて、仮に改修したい点があっても、オペレーションの工夫などで対処するというケースがほとんどでした。しかし、内製化が進んでいる現在では、サービスの改修要望や新サービスにかかわるアイデアなどを、エンジニアに対し積極的にあげていこうとする機運が高まっています」と紹介する。

また、現場側にもSalesforceについての基礎的な知見があれば、自分たちの要望する機能の実装に関する難易度や開発の規模感などを想像でき、エンジニアとの会話がスムーズになるはずである。「Salesforceには、ビジネス現場にいる非技術者の人員を対象とした学習コースのようなものの拡充も期待しています」と白鳥氏は語る。

自社のデジタル戦略を加速させるうえで不可欠な駆動力として、サービス開発の内製化を位置付けるカインズ。Salesforceがその取り組みを継続的に支えていくことになる。「弛みなく進化を続けるSalesforceのプラットフォームに追随するかたちで、我々自身も確実に進化を続けていきたいと考えています。また、当社からのフィードバックを新機能の企画などプラットフォームの拡充に生かしてもらうなど、今後もSalesforceとは、お互いに組織として成長できるような関係性を維持していければと思います」と池照氏は語る。

 

※ 本事例は2021年12月時点の情報です

店舗エンジニアリング本部
店舗生産性改革部 部長
白鳥 好太氏

店長やエリアマネージャーなどを歴任。店舗側ビジネスに精通する人財としてデジタル戦略本部の立ち上げに招集された際には、いくつものサービス構築をプロダクトオーナーとして主導。現在は店舗生産性改革部に所属しています。

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