ラーニングサービスを積極的に活用しIT未経験の営業担当者を
Salesforceの運用・活用を牽引する人材にリスキリング
新たなビジネスモデル創出に伴う営業スタイルの変革を念頭に、SFA/CRMの基盤としてSalesforceを導入したユーピーアールは、それまで担当者が各人の勘と経験に基づいて行ってきた属人的な営業活動のあり方を脱し、数値化された定量的、客観的情報に基づくデータドリブンな営業活動へとシフト。 有償トレーニングやTrailheadといったSalesforceのラーニングコンテンツの活用により育成された、元営業担当者がSalesforceの運用や現場での利用促進の局面からそうした変革を牽引しています。
新たなビジネスモデルの展開に向けた
営業改革が切実なテーマとして浮上
物流の領域において不可欠なパレットの販売、レンタル、リサイクル、さらには物流コンサルティングまでを手掛けるトータルパレットマネジメントカンパニー、ユーピーアール(upr)。中でも、同社のコアビジネスとなっているのがパレットレンタル事業だ。
「一般にパレットの用途としては、例えばお客様の倉庫内での保管型による利用などが主体ですが、当社では、工場などのいわゆる物流の“川上”から、小売店などの最終的な着地点、つまり物流の“川下”に至るサプライチェーン全体で、一貫してパレットをご利用いただけるような提案を進めており、そうした差別化や新たな付加価値の提供により、ビジネス競争力を強化していこうと考えています」とuprの岩西慶太氏は語る。
例えば物流業界では、2024年4月1日以降施行される働き方改革関連法によって、自動車運転業務にかかわる年間時間外労働時間の上限が制限されることに起因する「2024年問題」への対応が重要なテーマとなっている。uprが提案する、すでに述べたような新たなパレットレンタルサービスの活用アプローチは、ドライバー不足や運送能力の低下といった2024 年問題において浮上している諸課題に向けて有効なソリューションともなり得るものだ。
そうしたパレットレンタルに関わる新たな提案を進めていくには、当然のことながら、upr自身の営業改革、特に営業担当者の活動のあり方を変革していくことが不可欠である。岩西氏は「旧来の保管型パレットレンタルに関わる商談はというと、当社営業担当がお客様のもとを訪れ、パレットを何枚お貸しして、いつ返却いただくということを相談するという比較的単純なもので、そこでは定量的な予実管理や見込管理などをはじめとして、データや数値による営業プロセスの可視化などもほとんど行っておらず、各担当者が各々の勘と経験に基づいて属人的に営業活動を行っているという状況でした」と明かす。
また、物流の川上から川下に至るサプライチェーン全体への一貫した提案を行っていくためには、そこで必要な新たな営業活動のあり方、新たな営業スキルといったものの検討に加えて、一連のサプライチェーンに介在する様々な顧客を担当する営業担当者間での円滑な情報共有といったものも不可欠である。
特殊なビジネスにも対応できる柔軟なカスタマイズ性を評価
そこでuprでは、そうした要請に適う営業スタイルへの変革を支えるシステム基盤を整備すべく、SFA、CRMの導入に向けた検討を開始。2020年9月に社長の号令一下、推進部署を立ち上げて、業務のペーパーレス化などを起点に取り組みが進められていたデジタルトランスフォーメーション(DX)の一貫として、デジタル活用による営業改革に着手する運びとなった。
検討の結果、uprではSFA、CRMの基盤としてSalesforceを採用。すでに触れたデータに基づく予実管理や見込管理、営業担当者間および担当者とマネージャーの間の円滑な情報共有といった要件を満たすことはもちろんのこと、Salesforceはまさに同社が目指すデータドリブンな営業スタイルの実現をトータルに支援するプラットフォームだった。加えて同社では、自社の海外現地法人における活用も想定しており、グローバルな市場で圧倒的な実績を持つSalesforceの採用は、そうした観点でも理に適っていた。
「特にシステム面で評価したポイントとしては、グループウェアやコミュニケーションツールといったクラウドで提供される各種サービスとの連携が容易であるなど拡張性に優れていること、当社のパレットレンタルという特殊なビジネスにも対応できる柔軟なカスタマイズ性を備えていること、さらに当社では今回導入する営業支援の基盤を、将来的には販売管理システムという位置付けで構築・運用していきたいと考えており、Salesforceはそうした要請にも応える十分なスペックを備えていました」と紹介するのは、uprの佐藤文彦氏である。
上級執行役員 物流事業本部 国内営業部長岩西 慶太氏
パレットレンタルにかかわる事業を国内営業部長として統括。Salesforceの運用に関する総指揮を行う責任者という立場からも営業改革をリードしています。
業務ドメインに精通した営業担当を
運用実務を担う人員にリスキリング
Salesforceの採用を決めたuprでは、導入プロジェクトの開始にあたり、パレットレンタル事業の営業担当者1名を、主にサービスリリース後の運用や現場での活用支援を担う人員として、プロジェクトの推進主体であるDX本部に異動させるという施策も講じている。
佐藤氏は「外部からSalesforceのテクノロジーに精通した人材を補充するという方法も考えられますが、パレットレンタルのビジネスモデル自体、非常に特殊であることから、外部から来た人員がその内容を理解するのには時間がかかってしまいます。そこで、あらかじめ業務ドメインに精通した営業担当者の中から適任の人員を選定してDX本部に配備し、技術面についてはベンダーの協力を得て進めていくのが最善であろうと判断しました」と説明する。
このとき異動対象の人員として白羽の矢が立ったのが、過去11年にわたりパレットレンタル事業の営業担当として活動してきた一盃森健之氏である。当の一盃森氏は「私自身は、やはり世の中が急速に変化する中で、営業以外の知識や経験も身につけたいと考えていました。個人的なキャリアプランの観点から、リスキリング、特にDXの時代に即したスキルを獲得することが必須と感じており、IT未経験者ではありましたが、DX本部が営業担当者を必要としているという話を耳にして手をあげた次第です」と語る。
uprにおけるSalesforceの導入プロジェクトは2021年6月にスタート。一盃森氏は同年7月から営業を兼務するかたちでプロジェクトに関わり始め、DX本部への異動が正式に決まったのが8月、実際に配属されたのは9月だった。
「配属された時点で、Salesforceのサービスのリリース予定が1カ月後に迫っている状況でした。当時、IT未経験者の私はSalesforceについて何らの知識も持っていない状態であり、Salesforceのサービス自体についての概要やどのような使い勝手のものなのかを早急に理解する必要がありました」と一盃森氏は振り返る。
そこで一盃森氏は、会社に申し出て、Salesforceの実施する有償トレーニングを受講。あわせて、Salesforceのオンライン学習プラットフォームであるTrailheadなども活用して必要な知識の習得に努めた。またリリース後、システムの運用や現場での利用支援に当たるには、それらの学習によって得られるSalesforceの標準サービスだけでなく、自社の環境ではどういうカスタマイズが施されているかといったことについても十分に把握する必要があった。プロジェクトの支援にあたっているベンダーやSalesforceの営業担当者の協力を得ながら、例えば設定作業なども自ら実施するといった実践的なスキルを身に着けるなど、9月末のリリースには基礎的な知識やスキルを獲得して臨むことができた。
その後の運用については、一盃森氏を含むDX本部のメンバー2名とベンダーの協力体制により進め、岩西氏が運用のチェックなど全体的な指揮にあたっている。
リリース直後には、現場での利用定着化に向けた活動を開始。「Web上で10回程度の説明会を行う一方、全国の営業所を巡回して、営業のミーティングなどに参加するなどして、現場担当者にフェイスツーフェイスで説明を行いました」と一盃森氏は言う。実際、導入後の2カ月間、一盃森氏の勤務状況は、1週間のうち本社への出勤が月曜日1日だけで、それ以外の日はすべて全国各地への出張にあてられていたという。こうした活動に先立って、有償トレーニングやTrailheadを活用して、短期間で効率的にSalesforceの基礎をしっかり修得できていたことが大いに奏功したものといえる。
ただしその一方では、会社が進めるSalesforceの利用に対し、例えば入力作業の工数が負荷になるなど、営業側からの反発も少なからずあった。「そうしたケースでは、Salesforceをベースに営業改革を推進することの意義をしっかりと伝え、それによって得られるビジネス上、業務上のメリットや効果について意を尽くして訴えました。その際には、私自身が営業担当者として長年キャリアを積んできたこと、すでにSalesforceの基礎知識を身につけていたことが説得力を高めるうえで大いに役立ったと感じています」と一盃森氏は強調する。
そうしたDX企画部による活動のかたわら、uprでは経営トップの意思として、営業現場でのSalesforceの活用による改革を推進していく旨のメッセージを発信している。「例えば、営業会議での報告はすべてSalesforceのダッシュボードをベースに行うこととし、他の資料は一切使わないという方針で臨んでいます。言い換えれば、日々Salesforceを活用して必要な情報を入力していなければ、会議での報告もままならないというわけです」と岩西氏は施策の1つを紹介する。
もちろん、営業スタイルの変革は決して容易なことではない。これまでの施策に加えて、外部ベンダーの力を借りながら営業現場のキーマンである17名の営業所長と共にSalesforceの運用構築の取り組みを13カ月にわたって実施。その中で、勘と経験に頼っていた営業活動に関わるノウハウの言語化、標準化を徹底的に推し進め、それらをSalesforceに実装していった。これまでの営業スタイルを変えるのではなく、Salesforceの機能に自ら落とし込んでいくというこのやり方は、現場の各営業担当者自身が納得してSalesforceを活用していこうとする意識を醸成することにもつながった。
DX本部 DX企画部長佐藤 文彦氏
経営企画や営業、マーケティングなどの業務経験を通じた豊富な知見に基づき、uprにおけるDXの推進をDX企画部長として牽引しています。
DX本部 DX企画部 DX企画グループ 係長一盃森 健之氏
Salesforceの運用実務を担当。システムの運用改善にかかわる検討や営業現場における利用推進などを営業担当時代に培ったドメイン知識を生かし実践しています。
Salesforceの活用定着によりデータドリブンな営業スタイルにシフト
このような取り組みの成果もあり、現在、uprの営業現場にはSalesforceの活用がしっかりと根をおろしている状況で、そのことがパレットレンタル事業の営業活動に数々のメリットをもたらしている。
初期段階でSalesforceの知識の習得が効果的
例えば、営業担当者の日々の活動の履歴がしっかりと可視化され、必要な情報が担当者間で確実に共有できるようになったほか、これまで定性的に行われていた各種指標の把握が明確な数値として定量化され、予実管理や見込管理が適正に行えるようになるなど、まさにデータドリブンな営業スタイルへのシフトが確実に加速している。
「またマネージャーごとにバラツキのあったマネジメントレベルの統一化、底上げが図れたことも大きな成果。マネージャーは配下のメンバーの日々の活動の内容や進捗を適切に把握し、各フェーズにおいて適宜アドバイスが行えるようになりました」と岩西氏は語る。
今後もuprでは、Salesforceを基盤とした営業改革をますます強力に推進していくことになる。それに向けては、営業現場でのSalesforceの活用のあり方をさらにブラッシュアップし、より高度な使いこなしを実現していくことが必要だ。
「各営業所にSalesforceの活用促進、利用支援を行う人員を、“Salesforce委員”というかたちで配備していくといった構想もあります。もちろんそうした人員の育成にあたっても、Salesforceの有償トレーニングやTrailheadなどを積極的に活用していくことになります。あわせて、DX本部側でそうした現場でのSalesforceの活用推進を引き続き担っていく2名の人員には、Salesforce認定アドミニストレーター資格の取得にも取り組んでもらう予定で、そうしたことが彼らのさらなるモチベーション向上につながればと思っています」と佐藤氏はその描くビジョンを明かす。
将来に向けてさらなるビジネス競争力の強化に取り組むuprにおける、営業改革、そしてDX推進の駆動力として、Salesforceに寄せる同社の期待はますます大きく膨らんでいるところだ。